大阪地方裁判所 昭和31年(行)73号 判決 1965年1月23日
大阪市阿倍野区阿倍野筋一丁目八二番地
原告
きくえこと 中田キクヱ
広島県比婆郡比和町大字木屋原一〇一八番地
原告
中尾定子
大阪市住吉区住吉町一九六番地の一
原告
中田市義
大阪阿倍野区阿倍野筋一丁目八二番地
原告
中田和子
右同所
原告
中田千代子
右原告等五名訴訟代理人弁護士
南利三
同
山口俊三
同
南逸郎
大阪市東区大手前之町一丁目一番地
被告
大阪国税局長
右指定代理人検事
光広竜夫
同
法務事務官 戸上昌則
同
大蔵事務官 宗像豊平
同
同 根来正輝
同
同 高橋光生
同
同 奥野芳男
同
同 石黒俊一
主文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者双方の求める裁判
一、原告等の求める裁判
1 被告が昭和三一年九月一三日付で、訴外中田重の昭和二六年度分所得税についてなした審査決定中、同訴外人の所得金額一、一五〇、八四四円を越える部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二、被告の求める裁判
主文同旨の判決
第二、当事者双方の主張とこれに対する答弁
一、原告等の請求原因
1 訴外中田重(以下単に重という)は貸席業者であつたが、昭和二七年二月二九日訴外西成税務署長(以下税務署長という。)に対し自昭和二六年一月一日至同年一二月三一日(以下本件年度という)の総所得金額を一二〇、〇〇〇円(但し事業所得のみ)と確定申告し、更に同年三月五日右年度の総所得金額を二、〇五〇、〇〇〇円(但し事業所得一二〇〇、〇〇〇円、不動産所得五〇、〇〇〇円、譲渡所得八〇〇、〇〇〇円)とする修正確定申告をしたところ、税務署長は所得税法第四六条の二(当時施行の法律以下同じ)により重の所持金額を推計したうえ昭和二七年七月二八日、重の本件年度の総所得金額を二、七二七、〇九〇円と更正する旨の決定をしたので、重は昭和二七年八月二二日税務署長に対し、再調査の請求をしたが、この請求は所得税法第四九条第三項により被告に対する審査請求とみなされ、被告は昭和三一年九月一三日税務署長のした右更正処分の一部を取り消し、重の総所得金額を二、五一〇、九一一円に変更する旨の審査決定をし、その旨通知書がその頃重に送達された。
2 しかしながら重の本件年度の収支計算は、その後再検討した結果別表一の収支計算書中の「原告等主張金額欄」に記載したとおりであり、結局同年度の重の総所得金額は九五一、〇八五円である。よつてこの額を越えてなされた被告の前記決定はその超過限度において違法であるところ、重は昭和三五年九月一日死亡し、同日原告中田キクヱはその妻としてその余の原告等はその子として重を相続し、重の権利義務一切を承継したので、被告のなした前記決定のうち重の所得金額一、一五〇、八四四円を越える部分の取消を求める。
二、請求原因に対する被告の答弁並びに主張
1 原告の請求原因1の事実並びに同2の事実のうち本件年度の所得に関する別表収支計算書中の「原告等主張金額欄の席料収入、譲渡所得を除くその他の収支計算の金額及び原告等がその主張の日時に重を相続し、重の権利義務一切を承継したことは認めるが、その余の事実は否認する。
2 被告の主張
(一) 重は昭和二六年一月一日から同年九月三〇日頃までは大阪市西成区山王町四丁目三一番地(飛田新地内の通称弥生町)において同年一〇月一日頃から一二月三一日までは同町四丁目七番地(同新地内の通称山吹町)において接客婦をその支配下におき貸席業を営んでいたものであるが、被告の調査官(以下調査官という。)が重の収支の実態について精密な調査を行つたところ、重は収支算定に必要な帳簿書類を整理しておらず、備付け帳簿には毎日の取引を記録していなかつたので、帳簿等により直接その所得の実額を調査し計算することができなかつた。そこで調査官が重の陳述近隣等からの探聞、または同地域内の同業者の営業実態に基づく権衡実績(同業者の標準)などを可能な範囲で出来る限り調査したところ、重の申告が過少に失していることが明らかになつたので、税務署長は右調査官の調査結果に基づき次のように重の所得額を推計した。
(二) 被告の計算
本件年度における重の所得算出の計算は別表収支計算書中の「被告主張金額欄」に記載のとおりであつて結局重の所得額は三、一四二、二三七円であるからその範囲内で右訴外人の所得額を二、五一〇、九一一円と認定した被告の本件審査決定は違法である。
ところで、原告等は被告のなした右計算のうち席料(泊)収入(泊り客による収入、以下泊り収入という。)席料(花代)収入(時間ぎめ遊興による収入、以下花代収入という。)及び譲渡所得の点を除きすべて認めているから、以下右の争のある部分について述べる。
(イ) 泊り収入
前記のとおり帳簿等により直接泊り収入を調査し計算することができなかつたので、接客婦の年間稼働人員(各接客婦の稼働日数の合計)、接客婦一人当りの客付割合、泊り単価及び営業主の取分割合により推計した。
(1) 接客婦の年間稼働人員
訴外重は訴外税務署長に接客婦の年間稼働人員を申告していなかつたので、調査官が同訴外人備付けの帳簿等を調査したところ接客婦の稼働日数はもとより年間稼働人員を記録した帳簿書類もなく、また席料収入も泊り客と花客を区分して記録していないため、右訴外人が飛田新地組合へ登録した接客婦の年間稼働人員二、三八二人に次の理由により登録漏れと認められる二三八人を加算して接客婦の年間稼働人員を二、六二〇人と推計した。
貸席業者は接客婦の氏名及び稼働日数を飛田新地組合へ登録することとなつているので、原則的には組合に登録した年間稼働人員と税務署長に対して申告されたそれとは一致するはずであるが、赤線地区の接客婦の就業及び廃業は極めてひんぱんで飛田新地においても毎月平均五五%ないし七三%の接客婦が移動しているので、一般に貸席業は接客婦の移動を防止するため、接客婦を新規に雇い入れる場合には数日間の試傭期間をおき、定着の見込みがあると認められたとき初めて登録することにしていたので、その登録稼働人員は実際の稼働人員に比しおおむね一〇%程度下廻つていたのである。そして重の場合もその組合に登録した稼働人員は右の試傭期間中の者も含む実際の稼働人員に比し一〇%程度の脱漏があるものと認められたので、その脱漏分を登録稼働人員に加算し本件年度の接客婦の年間稼働人員を推計した。
(2) 接客婦一人当りの泊り客付割合
泊り客付割合は営業所のおかれた場所的環境により影響されるところ、重は前記のとおり昭和二六年一月一日から同年九月三〇日頃までは飛田新地内通称弥生町において貸席業を営んでいたが、同年一〇月一日頃同新地内通称山吹町に移動し、爾来同町で同業を営んでおり、山吹町は弥生町に比べて繁華地であつて客付割合も高いが、移転早々であることも考慮し、重の本件年度の接客婦一人当りの泊り客付割合を弥生町及び山吹町両営業期間とも九〇%(接客婦一人が一日〇、九人の泊り客をとつている、)ものと認めた。
(3) 泊り単価
席料は季節により高低の差のあるものであるが調査官及び協議官の調査並びに近傍同業者との権衡からみて泊り単価は昭和二六年一月一日から同年四月三〇日までは一、三〇〇円、同年五月一日から九月三〇日までは一、一〇〇円(以上弥生町営業分)、同年一〇月一日から一二月三一日までは一、三〇〇円(以上山吹町営業の分)であると認めた。従つて泊りの平均単価は一、二〇〇円となる。
<省略>
(4) 泊り収入
泊り平均単価一、二〇〇円に泊り数(接客婦の稼働人員に(2)の客付割合九〇%を乗じた数)を乗じて年間泊代合計額を計算し、業者は泊代のうち六〇%を取得する慣習があるので、右年間泊代合計に六〇%を乗じた金額一、六九七、七六〇円を重の本件年度の泊り収入と認めた。
(泊り平均単価 稼働人員 泊客付割合 業者の取分割合
1,200円×(2,620人×0.1)×0.6=1,697,760円
(ロ) 花代収入
花代収入は接客婦の稼働人員、接客婦一人当りの花客付割合、花代単価及び営業主の取分割合により推計した。
(1) 接客婦の稼働人員
前記(イ)の(1)記載のとおり本件年度の接客婦の年間稼働人員は二、六二〇人である。
(2) 接客婦一人当りの花代客付割合
調査官の調査によれば接客婦一人当りの花客の割合は、弥生町では一四〇%、山吹町では一六〇%(接客婦一人が一日弥生町では一、四人の、山吹町では一、六人の花客を取つている)であることが認められた。従つて接客婦一人当りの平均花人員の割合は一四五%となる。
<省略>
(3) 花代単価
調査官及び協議官の調査並びに近傍同業者との権衡からみて花代単価は、昭和二六年一月一日から同年四月三〇日までは五〇〇円、同年五月一日から九月三〇日までは四〇〇円、(以上弥生町で営業分)同年一〇月一日から一二月三一日までは五〇〇円(以上山吹町で営業分)であることが認められた。従つて花代の平均単価は四五八円となる。
<省略>
(4) 花代収入
花代平均単価四五八円に花数(接客婦の稼働人員に(2)の花客付割合一四五%を乗じた数)を乗じて年間花代合計額を計算し、業者は花代のうち六〇%を取得する慣習があるので、右年間花代合計に六〇%を乗じた金額一、〇四三、九六五円を重の本件年度の花代収入と認めた。
(花代平均単価 稼働人員 花客付割合 業者取分割合 花代収入)
458円×(2,620人×1.45)×0.6=1,043,965
(5) 原告等は昭和二六年五、六月分の泊単価は一、〇〇〇円、花代単価は三五〇円である旨主張するが、重が被告に提出した営業概況書(乙第六号証)の記載(五月分泊り客数一七七名、花客数一七五名、重取得席料収入一八三、八八〇円、六月分泊り客数一四一名、花客数一五四名、同訴外人取得席料収入一五五、一二〇円)に基づき席料単価を逆算すれば(右営業概況書記載の月別重取得席料収入を〇・六(営業主の取分割合)で除して月別合計席料額を計算し、同額と右営業概況書記載の泊り客数、花客数にそれぞれ原告等主張の席料単価を乗じて計算した月別合計席料額との差額を右営業概況書記載の泊り客数及び花客数で除し、その額を原告等主張の席料単価に加算する。)次のとおり五月分の泊り単価は一、一九三円七九銭、花代単価は五四三円七九銭に六月分の泊り単価は一、二一五円七〇銭、花代単価は五六五円七〇銭となる。従つて原告等主張の席料単価が理由のないものであることは明らかである。
5月分 泊り=177人×1,000円=177,000円
花代=175人×350円=61,250円
183,880円÷6=306,466円
306,466円-(177,000円+61,250円)=68,216円
<省略>
1,000円+193円79銭=1,193円79銭……泊り単価
350円+193円79銭=543円79銭……花代単価
6月分 泊り=141人×1,000円=141,000円
花代=154人×350円=53,900円
155,120円÷0.6=258,533円
258,533円-(141,000+53,900円)=63,633円
<省略>
1,000円+215円70銭=1,215円70銭……泊り単価
350円+215円70銭=565円70銭……花代単価
又被告主張の席料収入額が正当であることは次のことからも明らかである。すなわち席料収入の配分は業者が六〇%接客婦が四〇%であることは当事者間に争がないところ、昭和二九年になされた大阪府の調査によれば飛田新地の接客婦の一ヶ月平均収入(乙第一一号証)は二八、〇〇〇円であるから、この数額より計算すると業者の一ヶ月平均収入は四二、〇〇〇円(<省略>)年間席料収入は五〇四、〇〇〇円となる。
従つて訴外重の営業場所、営業規模及び設備等を考慮しても、前記営業概況書記載の年間席料収入二、〇八一、八五二円及び原告等主張にかかる席料収入一、四二二、九四七円のいずれもが真実の席料収入より遙かに少ない金額であることが明らかになるとともに、被告主張の席料収入二、七四一、七二五円がけつして不当な額でないことが判明するのである。
(ハ) 譲渡所得
(1) 重は昭和二六年九月頃その所有にかかる大阪市西成区山王町四丁目三一番地の七外三筆の宅地合計坪数五五坪六合八勺、同地上家屋番号同町一三一番木造瓦葺二階建店舗兼居宅一棟、建坪五二坪五合九勺、二階四二坪五合六勺(以下本件土地、建物という)、営業用什器及び備品並びに貸席業の営業権を訴外前坂ヤエに代金二、〇〇〇、〇〇〇円で譲渡し、右同額の収入金額(譲渡価額)を取得した。
(2) 事業用として使用している固定資産(土地、建物、什器、備品等)の売買取引によつて生じた譲渡所得の金額はその年中の総収入金額(譲渡価額)から当該資産の取得価額、設備費、改良費及び譲渡に関する経費を控除して計算する。(所得税法第九条第一項第八号、昭和二六年所得税基本通達一三五)
(収入金額)-{(取得価額+設備費+改良費-減価償却資産の場合減価償却相当額+譲渡に関する経費)}=譲渡所得金額
(A) 収入金額 二、〇〇〇、〇〇〇円
昭和二六年九月八日付売買契約書(乙第七号証)による。(昭和二六年所得税基本通達一九四、二〇二)
(B) 取得価額(設備費、改良費)
減価償却資産(所得税法施行規則第一〇条第二項、同第一一条、所得税法施行細則第四条)の譲渡所得の計算の基礎となる取得価額は、当初の取得価額(資産を取得した時の買入代金)設備費(資産を取得したのち付加した設備費等)及び改良費(資産を取得したのちに加えた改良の費用で通常の修繕費以外のものや賃借している建物にした造作費用で資本的支出と認められるもの等)から譲渡時までの減価償却費の累計額を差引いた金額によるものであるが(所得税法第一〇条の六)、事業用の固定資産については毎年事業所得を計算する際に毎年の減価償却費を必要経費(所得税法施行規則第一〇条第一項)とされているので譲渡時におけるその資産の未償却残額が取得価額となる。
減価償却費は大蔵省令で固定資産の種類ごとに定められている耐用年数をもとにして届出のあつた一定の方法(届出がなかつたときは定額法)によつて年償却額を計算し、その資産の残存価額(有形固定資産は取得価額の十分の一、無形固定資産は零「所得税法施行規則第一二条の一一第四項」)に達するまで償却できる。(所得税法施行細則第一条、同第二条、固定資産の耐用年数に関する省令「昭和二六年大蔵省令第五〇号所得税法施行規則第一二条の一一第四項」)
年償却額の算式(取得価額-残存価額)×定額法の償却率=年償却額
(a) 本件土地の取得価額 二四五、〇二〇円
(b) 土地は税法上減価償却資産に該当しないので減価償却の必要がない(所得税法施行規則第一〇条第二項)
本件建物の取得価額 三六八、七八〇円
資産の種類 建物
同 構造 木造
同 用途 貸席用
取得年月日 昭和二六年四月三〇日
譲渡年月日 昭和二六年九月八日
原始取得価額<ア> 三六八、七八〇円
残存価額 三六、八七八円(所得税法施行規則第一二条の一一第四項)
償却期間 五月(所得税法施行細則第二条)
耐用年数 二七年(所得税法施行規則第一〇条第三項 固定資産の耐用年数等に関する省令別表一)
償却法 定額法(所得税法施行規則第一二条の一一第一項一号同第一二条の一三)
償却率 〇・〇三七(固定資産の耐用年数等に関する省令別表七)
年償却額<イ> 零(所得税法施行細則第一条、同第二条)
事業専用割合 一〇〇%(<ア>-<イ>)
譲渡所得計算上取得価額 三六八、七八〇円
(c) 建物(改造費)の取得価額二三四、七三九円
資産の種類 建物(改造費)(所得税法施行規則第一〇条第二項第一号)
同 構造 木造
同 用途 貸席用
取得年月日 昭和二四年一二月三一日
譲渡年月日 昭和二六年九月八日
原始取得価額<ア> 二五〇、〇〇〇円(賃借している建物にした造作費用で資本的支出所得税法施行規則第一一条第二号)
残存価額 二五、〇〇〇円(所得税法施行規則第一二条の一一第四項)
償却期間 二二月(所得税法施行細則第二条)
耐用年数 二七年(所得税法施行規則第一〇条第三項 固定資産の耐用年数等に対する省令別表一)
償却法 定額法(所得税法施行規則第一二条の一一第一項一号、同第一二条の一三)
償却率 〇・〇三七(固定資産の耐用年数等に関する省令別表七)
年償却額 昭和二四年六九三円<省略>
同 二五年八、三二五円<省略>
同 二六年零(所得税法施行細則第一条同第二条)
償却累計額<イ> 九、〇一八円
事業専用割合 一〇〇%
譲渡所得計算上の取得価額 二四〇、九八二円(<ア>-<イ>)
(d) 営業権の取得価額 一二六、〇〇〇円
資産の種類 営業権(所得税法施行規則第一〇条第二項第七号)
取得年月日 昭和二二年一月
譲渡年月日 昭和二六年九月八日
原始取得価額<ア> 二一〇、〇〇〇円
残存価額 零(所得税法施行規則第一二条の一一第四項)
償却期間 五七月(所得税法施行規則第二条)
耐用年数 一〇年(所得税法施行規則第一〇条第三項 固定資産税の耐用年数等に関する省令別表一)
償却法 定額法(所得税法施行規則第一二条の一一第一項一号、同第一二条の一三)
償却率 〇・一〇〇(固定資産の耐用年数等に関する省令別表七)
年償却額 昭和二二年 二一、〇〇〇円
<省略>
同 二三年 二一、〇〇〇円
<省略>
同 二四年 二一、〇〇〇円
<省略>
同 二五年 二一、〇〇〇円
<省略>
同 二六年 零
(所得税法施行細則第一条、同第二条)
償却累計額<イ> 八四、〇〇〇円
譲渡所得計算の取得価額 一二六、〇〇〇円(<ア>-<イ>)
(e) 什器、備品の取得価額 一三一、三五七円
資産の種類 器具及び備品(所得税法施行規則第一〇条第二項六号)
同 用途 貸席用品
取得年月日 昭和二二年一月
譲渡年月日 昭和二六年九月八日
原始取得価額<ア> 二二九、四四〇円
残存価額 二二、九四四円(所得税法施行規則第一二条の一一第四項)
償却期間 五七月(所得税法施行細則第二条)
耐用年数 一〇年(所得税法施行規則第一〇条第三項、固定資産の耐用年数等に関する省令別表一)
償却法 定額法(所得税法施行規則第一二条の一一第一項一号、同第一二条の一三)
償却率 〇・一〇〇(固定資産の耐用年数等に関する省令別表七)
年償却額 昭和二二年 二〇、六四九円
<省略>
同 二三年 二〇、六四九円
<省略>
同 二四年 二〇、六四九円
<省略>
同 二五年 二〇、六四九円
<省略>
同 二六年 零
(所得税法施行細則第一条、同第二条)
償却累計額<イ> 八二、五九六円
譲渡所得計算上の取得価額 一四六、八四四円(<ア>-<イ>)
(3) よつて原告の譲渡所得額は次のとおり八七二、三七四円になる。
<省略>
(4) 原告等は、重が本件建物の修理費として約九〇〇、〇〇〇円を支出しているから被告主張の不動産等の譲渡によつて重は何等の利得も得ていない旨主張するが、そのような修理費が支出された事実は否認する。仮に原告等主張のとおりの修理費が支出されているとしても、右費用は所得税法第九条第一項八号所定の「当該資産の譲渡総収入金額から控除すべき費用、」に該当しないからこの点に関する原告等の主張は失当である。又原告等は重は本件年度において何等の譲渡所得も得ていない旨主張するが、重は昭和二六年三月五日税務署長に対し、本件年度の所得金額を、事業所得一、二〇〇、〇〇〇円、不動産所得五〇、〇〇〇円、譲渡所得八〇〇、〇〇〇円とする修正確定申告をしているから、原告等が本訴において重の右譲渡所得が八〇〇、〇〇〇円以下であることを主張することは許されない。なんとなれば納税者は申告所得額が実質所得額に比べて過大であるときは所得税法第二七条第六項により所定の期間内に「更正の請求」をすべきであり、その手続をせずに更正決定に対する再調査及び審査の決定を経ただけで所得額が右申告額より過少でありかつ右申告が錯誤等により無効であることを主張することは許されないからである。
(三) 以上の次第で重の本件事業年度の所得金額は別表の「被告主張金額欄」記載のとおりであるからこれより低額の所得金額を認定して税務署長の本件所得額更正処分を一部維持した被告の本件審査決定は適法であり、原告等の本訴請求は棄却されるべきである。
三、被告の主張に対する原告等の答弁並びに主張
1 被告の主張に対する原告の答弁
被告主張の二の2の(一)の事実のうち重が被告主張の日時に飛田新地内通称弥生町並びに山吹町において接客婦を雇傭し貸席業を営んでいたことは認めるもその余の事実は否認する。同(二)の(イ)泊り収入及び(ロ)の花代収入のうち重が飛田新地組合へ登録した接客婦の年間稼働人員が二、三八二人であること、重が昭和二六年一月一日から同年九月三〇日頃までは飛田新地内通称弥生町において、同年一〇月一日頃以降は同新地内通称山吹町において貸席業を営んでいたこと、業者が泊り代及び花代のうち六〇%を取得する慣習のあることは認めるもその余の事実は全部否認する。同(二)の(ハ)譲渡所得のうち重が昭和二六年九月頃その所有にかかる被告主張の不動産等を訴外前坂ヤエに代金二、〇〇〇、〇〇〇円で譲渡したこと、重が昭和二四年一二月三一日頃被告主張の建物の改造費として二五〇、〇〇〇円を支出したことは認めるもその余の事実は全部否認する。
2 原告等の主張
(一) 泊り収入
(イ) 接客婦の稼働人員
被告は重が組合に登録した接客婦の稼働人員は実際の稼働人員に比べ一〇%程度の脱漏がある旨主張するが、当時貸席営業では検黴の関係上警察の取締厳しく未登録の接客婦を稼動させることが出来なかつたため、重は接客婦の稼働人員を逐一組合に届出て居り、接客婦の登録稼働人員と実際の稼働人員とは全く一致するから本件年度の接客婦の稼働人員は重が組合に登録したとおり二、三八二人である。
(ロ) 接客婦一人当りの泊り客付割合は弥生町及び山吹町両営業期間とも平均七五%である。
(ハ) 泊り単価は昭和二六年一月一日から同年九月三〇日までは一、〇〇〇円、同年一〇月一日から一二月三一日までは一、二〇〇円であるから泊り平均単価は一、〇五〇円である。
<省略>
(二) 泊り収入
泊り平均単価一、〇五〇円に泊り数(接客婦の稼働人員に七五%を乗じた数)を乗じて年間泊代合計額を計算し、業者は泊代のうち六〇%を取得することになつているので右年間泊代合計に六〇%を乗じた金額一、一二五、四九五円が訴外重の本件事業年度の泊り収入である。
泊り平均単価 稼働人員 泊客付割合 業者取分割合
1,050円×(2,382人×0.75)×0.6=1,125,495
(二) 花代収入
(イ) 接客婦の稼働人員は前記(一)の(イ)記載のとおり二、三八二人である。
(ロ) 接客婦一人当りの花客付割合は弥生町での営業では平均四五%、山吹町での営業では七五%であるから平均客付割合は五五%である。
<省略>
(ハ) 花代単価は昭和二六年一月一日から同年九月三〇日までは三五〇円、同年一〇月一日から一二月三一日までは四五〇円であるから従つてその平均単価は三七五円である。
<省略>
(ニ) 花代収入
花代平均単価三七五円に花数(接客婦の稼働人員に五五・五%を乗じた数)を乗じて年間花代合計額を計算し、業者は花代のうち六〇%を取得することになつているので、右年間花代合計に六〇%を乗じた金額二九七、四五二円が重の本件年度の花代収入である。
花代平均単価 稼働人員 花客付割合 業者取分割合
375円×(2,382人×0.555)×0.6=297,452円
(三) 譲渡所得
重は被告主張の建物を取得以来その柱、床壁、畳等の修理手入をなし、約九〇〇、〇〇〇円の修理費を支出しているから本件不動産の譲渡等によつて重は何等の利得も得ていない。従つて譲渡所得に関する被告の主張は失当である。
第三、当事者双方の証拠の提出、援用及び認否
一、原告等の証拠の提出、援用及び認否
1 証人杉岡辰次郎、中田十郎及び中田守治の各証言を援用。
2 乙第一号証の一ないし三の成立は不知、その余の乙号各証の成立は全部認める。
二、被告の証拠の提出、援用及び認否
1 乙第一号証の一ないし三、第二、三号証、第四号証の一ないし三、第五号証の一、二、第六、七号証、第八号証の一、二第九ないし一三号証を各提出。
2 証人長島武雄及び上田尾優の各証言を援用。
理由
一、重が昭和二六年一月一日から同年九月三〇日頃までは大阪市西成区山王町四丁目三一番地(飛田新地内の通称弥生町)において、同年一〇月一日頃から一二月三一日までは同町四丁目七番地(同新地内の通称山吹町)において貸席業を営んでいたこと、重が昭和二七年二月二九日税務署長に対し本件年度の総所得金額を一、二〇〇、〇〇〇円(但し事業所得のみ)と確定申告し、更に同年三月五日右年度の総所得金額を二、〇五〇、〇〇〇円(但し事業所得一、二〇〇、〇〇〇円、不動産所得五〇、〇〇〇円、譲渡所得八〇〇、〇〇〇円)とする修正確定申告をしたところ、税務署長は所得税法第四六条の二(当時施行の法律以下同じ)により重の所得金額を推計したうえ昭和二七年七月二八日、重の本件年度の総所得金額二、七二七、〇九〇円と更正する旨の決定をしたので、重は昭和二七年八月二二日税務署長に対し、再調査の請求をしたが、この請求は所得税法第四九条第三項により被告に対する審査請求とみなされ、被告は昭和三一年九月一三日税務署長のした右更正処分の一部取り消し、重の総所得金額を二、五一〇、九一一円に変更する旨の審査決定をし、その旨の通知書がその頃重に送達されたこと、本件年度における重の所得に関する別表収支計算書中、席料収入、譲渡所得を除くその他の収支収計算の金額、重が昭和三五年九月一日死亡し、同日原告中田キクヱはその妻として、その余の原告等はその子として重を相続し、重の権利義務一切を承継したことは当事者間に争いがない。
二、前項記載のとおり税務署長は所得税法第四六条の二第三項に基づき重の本件年度の所得金額を推計し、本件所得額更正処分をしたのであるが、かかる所得金額の推計誤定は納税者が青色申告法人でなく、且つ当該納税者が収支算定の基礎となしうる帳簿等を備えていない場合のみ許容されるので、先ずこの点につき検討する。成立に争のない乙第三号証によれば重が昭和二七年三月五日税務署長に対して提出した修正確定申告書の用紙は青色確定申告用の用紙であることが認められたが、成立に争のない乙二号証及び証人上田尾優の証言によれば、重は所得税法第二六条の三に基づき税務署長に対し青色申告承認申請書を提出したことなく、右修正確定申告は重が誤つて青色確定申告の用紙を使用したにすぎないことが認められ右認定に反する証拠はない。そして前項記載の当事者間に争のない事実に成立のない乙第四号証の一を綜合すると重は昭和二七年二月二九日税務署長に対し本件年度の総所得金額を一、二〇〇、〇〇〇円(但し事業所得のみ)と確定申告し、更に同年三月五日右年度の総所得金額を二、〇五〇、〇〇〇円(但し事業所得一、二〇〇、〇〇〇円、不動産所得五〇、〇〇〇円、譲渡所得八〇〇、〇〇〇円)とする修正確定申告をしながら、昭和二七年一二月一一日被告に提出した所得税審査請求書においては総所得金額が一、六一六、四三九円(但し事業所得一、三五一、一五五円、不動産所得四八、六二四円、譲渡所得二一六、二〇〇円、配当所得四六三円)である旨主張していることが認められ、更に本訴において事業所得を八一五、四〇八円と主張している反面右の各数字の喰い違いにつき何らよりどころとなる帳簿その他の資料を提出しないことと、証人長島武雄及び上田尾優の各証言を綜合すると重は本件年度の収支算定の基礎となしうる帳簿を備えていなかつたか、或は備えていたとしてもその帳簿等によつては正確な収支計算ができなかつたものと推認されるから、所得税法第四六条の二第三項により重の収支の状況、事業の規模からその所得を推計して更正決定とすることは許されなければならない。
三、よつて次の被告主張の推計計算の根拠並びに計算関係について検討する。原告等は被告のなした計算のうち本件年度における重の所得に関する別表収支計算書中当事者間で争のあるのはその席料(泊り及び花代収入)並びに譲渡所得の点であるからこの点について判断する。
1 席料
成立に争のない乙第一一号証に証人長島武雄、上田尾優、中田十郎、中田守治の各証言を綜合すると、席料は貸席業者がその配下の接客婦にその経営にかかる待合等において客を接待、遊興せしめ、客の遊興代(泊り及び花代)の配分として受領する金員であることが認められるから、右席料収入を、接客婦の年間稼働人員(各接客婦の稼働日数の合計)接客婦一人当りの客付割合、泊り及び花代単価並びに営業主の取分割合に基づいて推計した被告の計算は一応合理性がある。
(二) 泊り収入
(イ) 接客婦の年間稼働人員
重が飛田新地組合へ登録した接客婦の年間稼働人員が二、三八二人であることについては当事者間に争がない、被告は貸席業者は接客婦の移動を防止するため接客婦を新規に雇い入れる場合には、数日間の試傭期間をおき、定員の見込みがあると認められたとき初めて登録することにしていたので、その登録稼動人員は実働人員に比し常に一〇%少ない旨主張し、前掲乙第一一号証、証人長島武雄の証言に弁論の全趣旨を綜合すると、飛田遊廓内の診療所の受診人員(検黴関係の定期健康診断受診人員)が重の申告稼働人員より上廻わつていたこと、新規に雇傭された接客婦が未登録のまま稼働していた例があつたこと、昭和三〇年頃の飛田新地の接客婦の就職及び廃業による移動率は五五%ないし七三%であつたことが認められるが、一方証人中田十郎、同中田守治の証言によれば、新規に接客婦を雇傭した時は直ちにその氏名、年令、本籍等を飛田新地組合に届出登録し、定期健康診断を受けさせねばならず、未登録の接客婦を稼働させる時は私娼と看做され、警察の厳しい取締りを受けたことが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。右認定事実によると、年間の接客婦の実稼働人員か登録稼働人員より多少上廻つていたことは窺われないこともないが昭和二六年度において被告主張のように登録稼働人員二、三八二人以外に更にその一〇%に相当する人員の未登録接客婦が常に稼働していたという事実を認めるに足る証拠は本件にはない、従つて実稼働人員が登録稼働人員より上廻つていたとしても上廻つている人員を把握出来ない上重が本件年度において使用していた接客婦の年間稼働人員はその登録のとおり二、三八二人と認めるほかはない。
(ロ) 接客婦一人当りの泊り客付割合
被告は重が本件年度に使用した接客婦一人当りの泊り客付割合は弥生町及び山吹町の営業とも平均九〇%である旨主張し、原告等は平均七五%である旨抗争し、証人中田守治及び同中田十郎は「昭和二六年当時貸席業は待合と特殊喫茶に二分され、待合において接客婦が客引きをすることは禁止されていたのに、待合三軒に一軒の割合でしか特殊喫茶の兼業が許可されていなかつたので、特殊喫茶を兼業している貸席業者は喫茶の店舗に接客婦を待機させ多くの遊客を待合に誘引することができたが、重のように特殊喫茶の兼業を許されなかつた業者は自己の接客婦を他人の経営する特殊喫茶に出向かせ遊客を誘引せねばならなかつたので、その接客婦の客付割合は特殊喫茶を兼業している業者のそれに比べて甚しく劣つていた。」旨証言し、証人中田守治は重の接客婦の泊り客付割合を七〇%ないし八〇%、証人中田十郎は同割合を五〇%ないし六〇%である旨証言しているが成立に争のない乙第六号証によれば重が自ら大阪国税局調査々察部へ提出した昭和二六年分個人事業概況書の記載内容からさえ本件年度の接客婦の申告稼働人員に対する泊り客付割合は八一・六%であることが認められる。なお前掲乙第一一号証、証人長島武雄及び同上田尾優の各証言に弁論の全趣旨を綜合すると、飛田新地は戦前より著名な公娼地帯であつたが、昭和二一年公娼廃止後は警察の行政指導を受け、それまで貸座敷営業の許可を受けていた業者はその営業を新たに待合、カフエー、下宿の三業に分離し、娼妓はカフエー女給に改まり下宿に居住する女給がカフエーに通勤して同所で働き、遊客と自ら契約して待合を利用して売春を行い業者は貸席料、下宿代名義で遊興代の配分を受けていたが、その後警察の取締の緩和とともに下宿制度は殆ど有名無実化し、カフエー営業の実はなく、業者はすべて待合、カフエー双方の営業許可を得て二業を兼業するにいたつたこと、大阪府の調査によれば昭和三〇年当時の飛田新地の接客婦一人当りの泊り客付割合は一〇〇%であつたこと、大阪国税局調査官訴外長島武雄が昭和二七年頃飛田新地内の一般貸席業者の接客婦の泊り客付割合を調査したところ平均九五%であつたこと、大阪国税局協議官が同年頃した調査によれば右客付割合は平均九〇%ないし一〇〇%であつたことが認められるので、前記証人中田守治及び中田十郎の証言中、客付割合を五〇%乃至八〇%とする部分はにわかに措信し難く右認定事実からみればかりに証人中田守治及中田十郎の証言中の営業形態からくる客足の低下があつたとしても結局において本件年度の接客婦一人当りの泊り客付割合は被告主張のとおり平均九〇%と見るのが相当である。
(ハ) 泊り単価
被告は重の本件年度の泊り単価は昭和二六年一月一日から同年四月三〇日までは一、三〇〇円、翌五月一日から九月三〇日までは一、一〇〇円(以下弥生町分)同年一〇月一日から一二月三一月までは一、三〇〇円(以上山吹町分)である旨主張し、証人中田守治は右泊り単価を八〇〇円ないし一、〇〇〇円、証人中田十郎は八〇〇円ないし九〇〇円である旨証言しているが前掲第一一号証、証人長島武雄及び同上田尾優の各証言に弁論の全趣旨を綜合すると、山吹町は弥生町より貸席業に好適な場所であり、泊り単原も一般に弥生町に比べて高額であること、一般に席料単価は季節により高低の差があり、夏期は他の季節に比して席料単価が安くなること、前記訴外長島武雄が昭和二七年頃飛田新地内の一般席業者を調査したところ、泊り単価は弥生町で約一、一〇〇円、山吹町では約一、二五〇円であつたこと、同年頃の大阪国税局協議官の調査によれば弥生町では一月から四月までは約一、三〇〇円、五月から九月まで約一、一〇〇円であつたこと大阪府の調査によれば昭和三〇年頃の飛田新地の泊り単価は平均一、五〇〇円であつたこと、重が被告に提出した営業概況書(成立に争のない乙第六号証)に基づき泊り単価を逆算(この計算方法については被告主張の2の(二)の(ロ)の(5)の計算参照)すると昭和二六年五月の平均泊り単価は一、一九三円七九銭、同年六月の平均泊り単価は一、二一五円七〇銭、本件事業年度の平均泊り単価は一、一四〇円八五銭(右営業概況書記載の重の本件事業年度の合計席収入一、六七五、二一〇円を〇・六・・・営業主の取分割合・・・で除して同年度の合計席料額二、七九二、〇一六円を算出し、同額から右営業概況書記載の泊り客数一、九四四人及び花客数一、五三二人にそれぞれ原告主張の席料単価・・・泊り代一、〇五〇円、花代三七五円、・・・を乗じて計算した合計席料額二、四八〇、二〇〇円を控除し、その差額三一一、八一六円を右泊り及び花客数合計三、四七六人で除し、その結果算出された九〇円八九銭を原告等主張の泊り単価に加算した金額)であることがそれぞれ認められ右認定を覆すに足る証拠はない。右事実に照し合わせると右証人中田守治及び同中田十郎の各証言中の泊り単価に関する部分は採用できない。そして以上認定事実によれば本件年度の泊り単価は被告主張のとおり平均一、二〇〇円と認めるのが相当である。
(ニ) 泊り収入
泊り平均単価一、二〇〇円に泊り数(接客婦の登録稼働人員二、三八二人に(ロ)の客付割合九〇%を乗じた数)を乗じて年間泊り代合計額を計算し、業者が泊り代のうち六〇%を取得することは当事者間に争がないから、右年間泊り代合計額に〇・六を乗じた金額一、五四三、五三六円が訴外重の本件事業年度の泊り収入額と認められる。
泊り平均単価 稼働人員 泊り客付割合 業者の取分割合 泊り収入額
1,200円×(2,382人×0.9)×0.6=1,543,536円
(二) 花代収入
(イ) 接客婦の稼働人員
前記(一)の(イ)記載のとおり本件事業年度の接客婦の年間稼働人員は二、三八二人と認められる。
(ロ) 接客婦一人当りの花客付割合
被告は重が本件年度に使用した接客婦一人当りの花客付割合は弥生町では一四〇%、山吹町では一六〇%平均一四五%である旨主張し、証人中田守治は右客付割合を弥生町では四〇%ないし五〇%、山吹町では七〇%ないし八〇%、証人中田十郎は弥生町では四〇%ないし五〇%、山吹町では六〇%ないし七〇%である旨証言し、その理由として同証人は「重の店の花客付割合が悪いのは重は特殊喫茶を兼業しておらず、その接客婦は他店に行つて遊客と交渉しなければならないため、女はその店に遠慮し、その店に客を先にとられてしまうためである。」旨証言しているが、前掲乙第六号証によつてさえ、本件年度の接客婦の申告稼働人員に対する花客付割合は六四・三%であることが認められる。さらに前掲乙第一一号証に証人長島武雄の証言を綜合すると、大阪府の調査によれば昭和三〇年頃の飛田新地内の接客婦一人当りの花客付割合は一五〇%であつたこと、前記訴外長島武雄が昭和二七年頃飛田新地内の一般貸席業者の接客婦の花客付割合を調査したところ、平均一四〇%ないし一六〇%であつたこと、花客付割合は店のおかれた場所的環境によつて影響されるところ、山吹町は弥生町に比べて繁華地で客付創合が高かつたことが認められ右認定に反する証拠はない。右事実に前記(一)の(ロ)の認定事実を併せ考察すると、重が本件年度に使用した接客婦一人当りの花客付割合は被告主張のとおり弥生町では一四〇%、山吹町では一六〇%、平均一四五%と認めるのが相当であり、右認定に反する証人中田十郎及び中田守治の証言は信用できない。
(ハ) 花代単価
被告は重の本件事業年度の花代単価は昭和二六年一月一日から四月三〇日までは五〇〇円、同年五月一日から九月三〇日までは四〇〇円(以上弥生町分)同年一〇月一日から一二月三一日までは五〇〇円(以上山吹町分)平均花代単価四五八円である旨主張し、証人中田守治は右花代単価を弥生町では三〇〇円ないし三五〇円、山吹町では四〇〇円ないし四五〇円、証人中田十郎は弥生町では三〇〇円ないし三五〇円、山吹町では三五〇円ないし四〇〇円である旨証言しているが、前掲乙第一一号証に証人長島武雄及び同上田尾優の各証言を綜合すると、山吹町は弥生町に比べて繁華地で花代単価も高いこと、一般に席料単価は季節によつて差があり、夏期は他の季節に比べて安いこと、前記訴外長島武雄が昭和二七年頃飛田新地内の一般貸席業者を調査したところ、花代単価は弥生町、山吹町とも約四五〇円であつたこと、大阪国税局事務官訴外上田尾優が飛田新地組合において重の花代単価を調査したところ、昭和二六年一月から四月までは五〇〇円、同五月から九月までは四〇〇円、同年一〇月から一二月までは五〇〇円であつたこと、大阪府の調査によれば昭和三〇年頃の飛田新地の花代単価は平均六〇〇円であつたこと、重が被告に提出した営業概況書(前掲乙第六号証)に基づき花代単価を逆算(この計算方法については被告主張の2の(二)の(ロ)の(5)の計算参照)すると、昭和二六年五月の平均花代単価は五四三円七九銭、同六月平均花代単価は五六五円七〇銭、本件事業年度の平均花代単価は四六五円八五銭(その計算方法については前記(一)の(ハ)参照)であることが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。右事実に照し合わせると右証人中田守治及び同中田十郎の各証言中の花代単価に関する部分は採用できない。結局本件年度の花代単価は被告主張のとおり昭和二六年一月一日から同年四月三〇日並びに同年一〇月一日から一二月三一日までは五〇〇円、同年五月一日から九月三〇日までは四〇〇円、平均花代単価四五八円であると認めるのが相当である。
(ニ) 花代収入
花代平均単価四五八円に花数(接客婦の登録稼働人員二、三八二人に(ロ)の客付割合一四五%を乗じた数)を乗じて年間花代合計額を計算し、業者が花代のうち六〇%を取得することは当事者間に争がないから右年間花代合計額に〇・六を乗じた金額九四九、一三一円が重の本件事業年度の花代収入額と認とめられる。
花代平均単価 稼働人員 花客付割合 業者の取分割合 花代収入額
458円×(2,382人×1.45)×0.6=949,131円
2 譲渡所得
(一) 重が昭和二六年九月頃その所得にかかる本件土地、建物、営業用什器及び備品並びに貸席業の営業権を訴外前坂ヤエに代金二、〇〇〇、〇〇〇円で譲渡したことについては当事者間に争がない。
(二) 事業用として使用している固定資産(土地、建物、什器、備品及び営業権)の売買取引によつて生じた譲渡所得の金額はその年中の総収入金額(譲渡価額)から当該資産の取得価額、設備費、改良及び譲渡に関する経費を控除して計算する(所得税法第九条第一項第八号)ところ、重が同前坂に譲渡した右資産のうち、建物、什器、備品及び営業権は所得税法施行規則第一〇条、所得税法施行細則第四条所定の減価債却資産であるから、その譲渡所得の計算の基礎となる取得価額は当初の取得価額(資産を取得した時の買入代金)設備費(資産を取得したのち付加した設備費用等)及び改良費(資産を取得したのち加えた改良の費用で通常の修繕費以外のものや賃借している建物にした造作費用で資本的支出と認められたもの等)から譲渡時までの減価償却費の累計額を差引いた金額である(所得税法第一〇条の六)、そして減価償却費は大蔵省令で固定資産の種類ごとに定められている耐用年数をもとにして、前記譲渡資産のうち建物、什器、備品については届出のあつた一定の方法で届出のなかつたとき及び営業権については定額法に基づいて算出されるところ、重が訴外税務署長に対しそのよるべき減価償却の方法を届出たと認めるに足る証拠がないから前記各譲渡資産の減価償却費はいずれも定額法(当該固定資産の取得価額から残存価額((営業権については零、その余の資産については取得価額の十分の一がこれに当る))を控除した金額にその償却額が毎年同一となるよう当該固定資産の耐用年数に応じた比率を乗じて計算した金額の各年の償却費とする方法)によつて算出される(所得税法施行規則第一〇条、第二、三項、第一二条の一一、第一、四項、第一二条の一二、第一二条の一三所得税法施行細則第一条、同第二条、固定資産の耐用年数に関する省令「昭和二六大蔵省令第五〇号」)
算式 (収入金額)-{(取得価額+設備費+改良費-減価償却資産の場合減価償却相当額)+(譲渡に関する経費)}-譲渡所得金額
(三)(イ) 本件譲渡資産の譲渡価額が二、〇〇〇、〇〇〇円であることについては当事者間に争がない。
(ロ) 成立に争のない乙第五号証の二及び第一二号証に証人長島武雄の証言を綜合すると、重は昭和二一年一月頃本件建物及びその敷地である本件土地を賃借するとともに、本件建物に付属する貸席業の営業権を二一〇、〇〇〇円、什器及び備品を二二九、四四〇円で買受け同家屋において引続いて貸席業を営んでいたこと、昭和二四年一二月三一日頃右建物を約二五〇、〇〇〇円の費用を投じて改造したこと(この改造の点について当事者間に争がなく、右争のない事実に証人杉岡辰次郎の証言を綜合すると右改造費用は重が本件建物内の写真場をホールに改造した際支出した左官代金と認められる。)昭和二六年五月三〇日頃訴外大阪土地建物株式会社より本件土地を二四五、〇二〇円、本件建物を三六八、七八〇円で買受けたことが認められ右認定に反する証拠はない。
原告等は重は本件建物を取得以来その柱、床壁、畳等の修理手入をなし、約九〇〇、〇〇〇円の修理費を支出している旨主張しているが前記争のない改造費以外に改造修理したことはこれを具体的に認めるに足る証拠はない。仮に修理をなしたとしても、その修理費は所得税法第九条第一項第八号所定の「資産の譲渡総収入金額から控除すべき費用」に該当しない。
(ハ) 以上認定事実を前提としてこれに所定法条を適用して重の本件事業年度の譲渡所得額を計算すると、次表のとおり八七二、三七四円となる。
<省略>
四、以上の次第であるから、重の本件事業年度の所得額は別表収支計算書中の「当裁判所認定金額欄」記載のとおり二、八九三、一七九円になる。
よつてその範囲内で重の所得額を二、五一〇、九一一円と認定し、税務署長のなした所得額更正処分を一部維持した被告の本件審査決定は適法で、原告等の本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石崎甚八 裁判官 潮久郎 裁判官 元吉麗子)
収入計算書
<省略>